大みそか、いかがお過ごしですか。タイガースのハイライトばかり見るのも良いんですが、今年なに湯に行って、来年はどこ湯に浸かりたいか、考えながら過ごす年の瀬も幸せです。6軒振り返り。
1.大井温泉(香川県三豊市)
マッスル鍋の今年最初のお鍋は香川でやりました。とある民家を借りて荷物を置いてから、買い出しの前に近くの父母ヶ浜へ。言わずと知れた夕日の名所で、ものすごい数の観光客とともに日没を見届けました。
地図から近くに風呂あるやん!と気づいて大井温泉さんへ。周りは古い港町の趣があって、くねくね路地に一瞬迷いましたが煙突をたよりに到着。
冬の海で過ごして冷え切った身体にちょうどしみこんでいく温もり。シンプルな浴室でしたが、なんやかんや1時間くらい過ごしました。しかし、あんだけ海岸にわんさかいた観光客は、誰ひとりここには来ていませんでした。海水浴シーズンは賑わったりするのかな。みんな気づいて!
2.一の湯(群馬県桐生市)
4月に4年半のブランクを経て見事リスタートを切ったお風呂屋さんです。が、関東では伝説の帝国湯復活と時期が重なってしまい、ちょっとそちらに話題をさらわれちゃったかな…というもったいなさのある門出でした。
しかしその佇まいのかっこよさは、帝国湯に何ひとつ劣っていません。中もトイレは綺麗になっていましたが、改装は最小限にとどめてあり、そこかしこからいぶし銀のオーラが全開に放たれています。
浴室も以前のままかな。薪沸かしのお湯がじーんと芯に入ってきます。不思議なほど湯上がりが爽快で、思わず「さっぱりした」と声が出て、カーテンの向こうのおかみさんから「よし」と返ってきました。
「前は入ってられないくらい熱かったんだ、今はまだまだぬるいよ」と話す以前からの常連も、目の奥は笑っていて嬉しさを隠しきれていないようす。風呂屋の復活はこういう場面があるからなんぼあってもええもんなのです。
周辺もいいぞ!
3.昌の湯(大阪市城東区・廃業)
真夏にマッスル・コミッショナーと大阪で飲んで、ほどよく酔いが消えたとき、2人とも唐突に「風呂行きたい」がすべての欲望を上回ってきました。さまよった末になぜか鴫野と緑橋の間という謎すぎる場所まで来て、ここでひとっ風呂となりました。
きらきらした青の細かなタイルに縁取られたアーチの下から浴室に入ると、そこはでっかい切餅のような御影石が敷かれたジ・大阪風呂空間。ざらざらと素足にくっつく石畳の感触、久しぶりにいい!
それにしても、普通なら風呂からも遠のいてしまいそうな、蒸し暑い夜でした。なのになぜ風呂を猛烈に欲したのでしょうか?そしてなぜここまでやって来たのでしょうか?何か目に見えない力が働いたような気がしています。とにかく忘れられない風呂屋になりました。
※30日に閉店されたことを投稿直前に知りました……。無念です。
4.竜宮閣(静岡県熱海市)
数名の旅行で幹事役となり、行き先が熱海に決まって真っ先に電話したのがここでした。電話に出た宿の人は素泊まりだけだぞと、本当にうちでいいのかと、ずいぶんと訝しげな反応。それもそうなのか、ここは数多ある熱海温泉の宿の中でも屈指の渋さを誇る「泊まれる風呂屋」なのです!
しかし同行者、よくOKしてくれたもんです。幹事役のハイテンションぶりに呆れることなく付き合ってくれました。いざいざ風呂!
竜宮閣は斜面にへばりつくように建っていて、浴室へは階段を下りていきます。その動線からもうツボです。
浴室。いやー素敵!これを見にきたようなものです。
成分の色に染まっちゃってるのがいかにも温泉です。ちなみに湯はスーパーホットです。
絵もいい。全部最高!
はい。
これ以上言葉が出ません。竜宮閣!風呂だけでも行けます!みなさんもどうぞ!
客室からの眺めもよい
5.安善湯(横浜市鶴見区・廃業)
またひとつ、私たちはよそにない風呂屋を失いました。
男女で浴室は独立していて、円い浴槽を取り囲むようにカランが並んでいます。天井も丸く切り抜かれて、その先に湯気抜き窓が見えています。こんな構造、いま見てもモダンなのに、90年以上も前から存在していたんだとか。
浴槽には湯がなみなみと張られていました。廃材や薪で沸かしていて、力強く優しいあつ湯に包まれます。
ペンキ絵が2種類もありました。富士と桂浜かな?浴槽越しに眺めると、本当に海の向こうに見えているようです。
ぐるぐる鳴門タイルも大昔のものに見えます。水色の壁に、円やアーチを多用したこのお風呂、竣工当時は時代の最先端をゆく憧れの空間だったに違いありません。
海を埋め立てて造られた工業の街の発展を見つめ続けた風呂は、それ自体を産業遺産と呼んでもオーバーではないでしょう。脱衣所部分は立派なコンクリートの梁があって、セメント工場の関連施設だった歴史を反映しているよう。この建物も4月末の廃業後早々に解体へ着手されたと聞きます。
6.栄湯(奈良県五條市・復活?)
マッスル鍋開幕翌日、なんとあの栄湯さんが1日限りでお湯を沸かすと聞いてひっくり返り、前日風呂に入りそびれたコミッショナーに頼み込んで五條まで車を走らせてもらいました。
インターから本陣交差点へ下りるいつもの道の、和歌山線を越える陸橋から、あの煙突が煙をたなびかせているのが見えました。白く美しい煙でした。あの澄んだあつ湯に、また会える。
着いたらおかーちゃんも私たちを見てひっくり返っていました。無料開放されていて、今まで見たことないほどの客がひしめいています。
そして、あつ湯は健在でした。大将は湯船が劣化して漏れがひどいんやと言っていましたが、やわらかく沁みいる熱いお湯が、久しぶりの客を泣かせていました。水の蛇口が全開まで捻られ、客がそこに集まって「適温」を探るようすは営業当時と何ら変わらない光景でした。
女湯に飾ってあった絵の作者の長谷川義史さんが来られていました。来てささっとまた絵を描いていかれたそうです。「1日かぎり栄の湯 はいりたくて人つどう」。やっぱりみんな栄湯が好き。1日だけでもやってくれたら嬉しいし、客もみんなウキウキしていてすごく元気が出ました。元気になったのは大将ご夫婦もそうだと思います。風呂に入ること以上に得るものがたくさんありすぎるから僕らは風呂屋に行くのです。来年も行くぞ!よいお年を!!!
※施設内の撮影は許可をいただいています