2014年の夏というのは、なんでか本州ではあまりスカッと晴れない日が多かった印象です。その頃、学生の私は初めて九州の地に足を踏み入れ、南へ行くほど天気が良くなることになんだか嬉しくなったものでした。
18きっぷで日豊本線はなかなか退屈な旅路でした。1日数本の難所「宗太郎越え」をクリアした先の延岡で宿をとり、夜が近づく中を少し歩いた先にその湯はありました。
喜楽湯さん。ここが私に、生まれて最初の「旅先銭湯」を経験させてくれた浴場です。
見事なまでに時が止まった浴室はしんと静まりかえり、コポォンと桶を置く音が広がって、外のセミが声を出して逃げていきました。ここで見たもの、感じたことひっくるめて全部、成人を迎えたばかりの私には相当に強烈でした。さみしい。けど温かみがある。奈良の街みたいやななんて思いました。
何年かして会社員になって、あちこち出張で訪れても、結局は素敵なお風呂屋さんの有無が、不公平にもその街に対する印象を決めてしまいます。延岡は遠いけど、リピートする意志のある街のひとつなのは間違いありません。
喜楽湯さんは営業時間を縮めながらも、まだまだ現役で湯をわかし続けているようです。この季節に紫色の夕焼けを見ると、番台で流れていた「ニュース7」のテーマとともに、青の世界の記憶が戻されます。
※施設内撮影は当時許可を得ています