奈良市の敷島温泉さんが、2月15日をもって営業を終えられました。
およそ1週間前に閉店の知らせを聞いて、まさかここがと驚きを隠せませんでした。駅から近く、サウナ付きで、比較的遅くまで開いているだけあって、いつ入ってもにぎやかな風呂だったからです。
2010年代中盤より一気に廃業ラッシュが押し寄せた奈良市の銭湯。風呂好きの私たちもその中でなんとなく「敷島はこれからも安泰だろう」と思い込んでいました。正直に言ってほかのもっと渋い銭湯を優先して訪れていた時期があり、今となってはそれがものすごく悔やまれます。
敷島温泉さんは便利な場所とはいえ、繁華街に背を向けるように立っていて、たどり着くには少し地図を使う立地でした。これからはもう、三条通を「三ちゃん」の角で曲がることも無いのでしょう。ひとつの風呂屋が閉まるとき、そこへの道も使わなくなると思うと余計に寂しいです。
奈良にしては熱いお湯でした。浴室入口すぐの、1段高い場所に2つだけ独立して並ぶカランを気に入っていて、空いていれば好んでそこを使いました。湯船はいつも混んでいて落ち着かなかったけれど、絶妙なタイミングで譲り合って浸かるのが、パス回しのうまいゲームのようで面白くもありました。
ここでの楽しみは風呂上がりにも。奈良市内の銭湯では珍しく森永のドリンクを置いていて、「極楽湯奈良店」なきあと瓶入りのマミーをいただける唯一の存在になっていました。なにげにこれの消失が大きな痛手だと感じています。
男湯だけかもですが、若い客も目立ちました。大学生のころ友人から、閉店ギリギリに行ったために、入浴途中にクローズを迎え、名物だった(?)おばあちゃんに怒られてしまった話を聞いたこともありました。印象的だったのは、ある日のツイッターに投稿したこんな光景です。
【奈良の風呂に浸かろうのコーナー】
— マッスル鍋 (@muscle_nabe) 2021年5月4日
三条から南へ一筋、敷島温泉に入ると高校生が数人。
「今から風呂入りに来いやってラインしといて〜」だと。高校時代、風呂屋に呼び出される経験は無かったのでなんか羨ましかったです() pic.twitter.com/fAX0PoW5Gx
学校終わりはマクドじゃなくて銭湯。何も思いつかないうちにみんなで向かう場所として、敷島温泉を選択できる回路が、間違いなく彼らの心に育まれていました。幅広く地元民に愛されていることを実感したものです。
その高校生も私たちも、もう敷島温泉のことは思い出として処理するほかないというのが口惜しい限りです。しかし私たちは、確かにこの湯で温浴の魅力を知り、親しみを深めました。それを忘れることなく、これからも地元の湯を愛し続けないといけません。奈良市の銭湯は4軒となりました。
最終日もよく温もりました。改めて、敷島温泉さん、熱いお湯を、冷えた瓶マミーを、ほっとする時間を、ありがとうございました!
※浴室内の画像は許可を得て2021年に撮影