いろいろな縁があって、福井県は越前大野までやってきました。名水の湧く城下町には、奇跡的に渋い風呂屋が3軒も現役です。
なかでも、お世話になったゲストハウス「荒島旅舎」さんがプッシュしてくれたのが、お城の山のそばにある亀山湯さんでした。
出迎えてくれた大将、最近まで土曜日の営業をやめていたんだけど、いざ復活させたら全然客が入らなくて、忘れられちゃったのかなとボソボソ。
1人だけで回しているし、後継はいないし、誰も入りに来ないし、燃料は足りないし、いつ設備がやられるか分かんないし…と大将のネガティブな発言はその後も止まらず。
半年ほど前に取材にやってきた公共放送のドキュメンタリでは「ボヤキの湯」と名付けられてしまったんだと、これまた自嘲気味に話してくれました。
ふと、新聞記事のスクラップを取り出すと、そこには「亀山湯 廃業の危機」の大見出し。大将のボヤキも新聞特有の書き方で活字にされると、余計に緊迫感が増します。
けれどもこのやり取り、風呂おたくならどこかしらの湯で経験済みなのでは。
後ろ向きな言葉のすき間からひしひしと、あっこの人めちゃくちゃデレてるなってのが伝わってきます。悪いことばかり書かれた記事を見ながら「あの記者俺が喋ったことそのまんま書きやがった」なんてボヤいてるあたり、もう確信犯ですやん。そして、もっといろんな人に、ここまで入りに来てほしい——。そんな願いもにじませているように思えました。
名水を沸かした熱々の湯は、指をつけると湯に触れている部分との境があいまいに思えるほど軟らかく、一気に温まります。
広い脱衣所の頭上にぶら下がる年季の入ったファンは現役。非日常にすら思えるノスタルジックな空間は、住民からすれば当たり前にあるいつものお風呂です。そのギャップから、旅情が次々と染みだして止まりません。
亀山湯さんは新聞に書かれたような一刻を争うほどの状況ではさすがにないと思いますが、ピンチなのはピンチです。独善的でしょうけど、そんな時に旅の者が気分よく浸かりにやってくるだけでも、それが何コンボ続くかによっては、せめて大将のモチベーションを上げる力くらいにはなると信じてやみません。
このコロナ禍にあっても、大将は遠くからやってくる者に心を開いてくれています。「助けたい」だなんて気取らないでふらっと入って「ここいいなあ」でボヤキを迎撃しちゃいましょう。近々再訪します。
※施設内の撮影は許可を得ています